鬱蒼とした森の中を舗装された坂道が走る。木々は鮮やかな緑で、木漏れ日の明るさも春らしい。自問坂と名づけられたこの坂の急な曲がり角の突き当りには、無言館とその別館への案内板が立っている。

日帰りで長野県は上田市の近くにある無言館へ行く。以前から一度見てみたいと思っていたが、近くにすら行く機会がない上、最寄駅から歩ける距離でもないため、なかなか行けないでいた。北陸新幹線に乗りたかったり、帰りに東京で美味しい夕ご飯を食べたかったり、いくつか理由を見つけたので、一気に行って、一気に帰ってくることにする。往復で500kmくらいだろうか。

無言館を通って温泉地まで行くシャトル・バスが春から秋にかけて運行しているようだ。その最寄り停留所から降りると、公園や広場があり、その奥から坂を登っていくと無言館に着く。山に入る森の坂道は長い。

いわゆる美術館やギャラリーと違って、主役は訪問者の美術館なのだと思う。周囲の環境も含めた一種のインスタレーションであり、双方向性のあるメディア体験でもあるような気がする。茶室と似ているのかもしれない。無二の体験ができるとも言えるし、何も体験できない体験ができるとも言える。季節によっても違う感覚になりそうだし、何十年か後の冬にもう一度来たい。