大振りの石造りの柱とレンガの壁で構成された美術館の建物を囲むように、黒い鉄柵と展覧会のポスターや美術館の案内の掲示板が並ぶ。掲示板の左脇からは美術館へ入る階段が見え、右側の鉄柵の奥には凝った意匠の換気孔も見える。

アール・ヌーヴォーで重要な人物の一人、オーブリー・ピアズリーの展覧会を見に行く。ピアズリーについては名前といくつかの絵くらいしか知らないが、好きな画風ではあるので楽しみだ。開館前から行列で、やや出鼻を挫かれる。

年代順に作品が並ぶ。初期からかなり完成された画風ではあったようだ。話の筋を思い出しながらアーサー王の死やサロメを見ていくと、もはや挿絵ではなく、絵に話が付いているような気もしてくる。未刊行のポー作品集の挿絵は知らなかったが、「黒猫」といい「アッシャー家の崩壊」といい、雰囲気が抜群だ。死ぬ直前の作品では書き込みが尋常じゃなくなっていき、この辺りになると好みからは外れてくる。それでも白黒というだけでただただ魅惑されてしまう。いずれ現代の白黒イラスト代表としてエドワード・ケアリーとでも並べて鑑賞できる機会でもあったらうれしい。

活動期間が短いせいか、年代順にすると同じような作品を並べざるを得ず、見ていて飽きてくる。そして、飽きさせないよう、ギュスターヴ・モローやアルフォンス・ミュシャの作品が挟まるが、それらの持つ存在感が圧倒的すぎる。ピアズリーの作品が負けているように感じられてしまい、その魅力がくすんでしまう。本の状態での展示方法も含め、全体的に構成に問題があるように感じる。

各展示室の終わり辺りの壁には、作品の一部を大きく拡大した細長のパネルが床から天井まで貼られている。部屋を移動する時に作品の持つ雰囲気が鮮やかに蘇るような、後ろ髪を引かれるような、良い余韻を与えてくれるものだ。他、壁の色も含めて、展示室の意匠は良かったと思う。


レンガで作られた壁は左右にアーチ付きの出入り口がある。その間は少し手前にせり出しており、そこに寄せて木製のベンチが並べられている。ベンチには表紙が青い展覧会の図録が置かれている。
レンガの部屋

美術館自体は、リニューアルというほどではない。色々ときれいになっているようにも思えたが、久しぶりすぎて覚えていない(レオナルドとミケランジェロの展覧会以来だったように思う)。雰囲気が大きく変わるということもなく、壁龕や、扉、階段、照明を堪能できる。壁龕というか、アルコーブというか、部屋の凹んだ場所は大好きだ。

展示室は天井が黒くなったからか暗めになったような気もするが、雰囲気は良い。天井を走る黒い空調の配管もちょっと好きだ。ミュージアム・ショップも特に変わっていないので、相変わらず狭い。首が持ち上げられている方のサロメのポスト・カードが並んでいないものの、ちょうど再入荷したところらしく、奥から出してもらえた。ポスターが欲しかったが、この絵ははないらしい。