谷中霊園の中央を走っている桜並木の道。

東京は谷中に全生庵という寺がある。開祖である山岡鉄舟……云々はおいておく。ここには初代・三遊亭圓朝が収集していた幽霊画があり、彼の命日に合わせて8月にだけ一般公開される。少し前に読んだ小説に圓朝が出てきて興味を持ち、エンヤコラ見に行った。納涼だ。

全生庵へは千駄木か日暮里から行くのが近い。上野東京ラインで日暮里で良いのかなと思っていたが、どうもこの系統だと日暮里は止まらないようだ。上野東京ラインの気持ちが理解できる気がしない。ならばちょうど話題の国立西洋美術館を通って行くことにしようと、上野からちょっと歩いて向かうことにした。

開館前で誰も人がおらず美しい国立西洋美術館。

国立西洋美術館のたたずまいは相変わらずだが、9:30開場で、まだ閉門していた。さすがに9:00に上野駅は早すぎた。それでもわらわらと人がいてすごい。中は見るつもりはなかったので、早々に切り上げる。久々なので続けて上野の公園を休みつつフラフラし、国立科学博物館、東京国立博物館、法隆寺宝物館と巡るもすべて開場前だったのでチラチラとしか見えない。

オーバーハングした2階部分が特徴的な芸大美術館。

宝物館から芸大へと続く大きな道に沿っていけば全生庵につくようだ。芸大美術館もちょっと見る。今は琵琶湖周辺から観音様が来ているようだ。ちょうど読んだ小説で琵琶湖一帯の十一面観音がつよく筋に絡んでいたのでこれも気になったが、ここもまだ開場前だ。完全に来る時間を間違えたような気がしてきた。


墓と寺。

谷中はもう寺、寺、寺、寺そして寺だ。ブロックごとに最低3寺はあるような気がしたが、地図を見たら本当にそれくらいあるようだ。包丁塚がある寺や関係者以外入れない寺、入りそうになった寺が実は豪邸とか色々だ。ここに限らずだいたいの寺には、入ったすぐのところにちょっとした岩や植木、石仏などを使った小景がある。それを見るのが好きだ。特に凝ったものでなくても妙な形の岩があったりして面白い。

石の上の石像。

父方の祖母が町屋に住んでいたので、谷中に入るとなんとなくその雰囲気を思い出した。数回しか行ったことはないので、気のせいかもしれない。それでもなんとなく懐かしくなるから単純なものだ。

1ダースほど寺を見て、右に折れると谷中霊園へ向かうあたりを左に進むとすぐに全生庵に着いた。そのまま進むと5分くらいで千駄木に着くらしく、やはり千駄木駅から歩くと良いようだ。今回は結局、上野から1時間強かけて歩いていた。全生庵の敷地内に入ると目に入る金ぴかの観音様にびっくりした。

幽霊画

「全生」の石碑。

ようやく目当ての幽霊画だ。拝観料は500円だった。撮影禁止なので写真はない。

展示場は本殿などではなく、本殿の横にある入り口から入った先の部屋だった。土足で入りそうになって申し訳ない。ちょっと広いリビングくらいの部屋に20幅強、壁に直接かけられ展示されていた。円山応挙による(とされる)作品を始め、実に様々な幽霊画が並ぶ。女の幽霊が多いが、いくつか男のものもあり、中には幽霊のいない幽霊画などもあったりする。足がないとも限らないのも興味深い。

やはり淡墨と幽霊の相性の良さはすごい。顔だけはっきりしているパターンが多いのも淡墨で周囲をぼやけさせることで強調していたり、油絵で幽霊ってどう描くのだろうと考えてしまうほど、淡墨の凄みを感じられた。

また、掛け軸をガラス越しではなく直接見るのもなかなかなく、新鮮だった。ちょっと暗くて、古いエアコンが轟音で動いている中で見るのも、なんとなく雰囲気が出る。というより一人で見てると突然何かの気配がしたりして怖い(受付の人が歩いてただけだが)。窓もないので、停電とかしたら叫ぶと思う。

瀧波ユカリが書く人物っぽい顔をした幽霊は夢に出てきそうだ。


自然のまま残る森。

さすがに寺も普通の路地を歩くのも飽きてきた。緑があって涼しいかもしれないということで谷中霊園を突っ切って日暮里駅を目指すことにした。山岡鉄舟からの徳川慶喜というわけだ。その前に全生庵の裏手にある初音の森というところにも寄ってみる……が、森の中には立ち入れないようだ。季節柄セミの音がすごかったが、うっそうとした森で聞くと気持ち良いものだ。

初音の森をぐるっと回って、谷中霊園を目指す。5分くらいで着いた。霊園内を走っている道沿いには想像通り緑が多く(最初の並木道の画像は谷中霊園のそれだ)、日差しが強くなってきた昼前にはちょうど良かった。墓を見る趣味はあまりないので、道沿いにフラフラしたりしながら、「立体埋蔵施設」というような非人間的な名称のついている墓はちょっと良いななどと考えていた。耐えられない程度に暑くなり、思考が雑になってきた。

昼ごはんを日暮里駅前で食べる。もうちょっとフラフラしようかとも考えていたが、疲れたのでここまでにすることにした。帰りは山手線で新宿に出て、少しフラフラしてから帰った。夏休みの真昼ということで電車も空いていたため、ロマンスカーを使わずに帰った。


下町の古い民家風の自転車屋さん。

上野と千駄木、日暮里に囲まれたエリアは、何もないようで色々あり、散歩にはすごく良かった。都合3時間弱でコンビニが1軒もなかったのも面白い。今度は千駄木から日暮里へ商店街を散歩してみたい。全生庵のすぐ近くにあったトーキョーバイクで自転車を借りて、走り回るのも良さそうだ。そうすれば根津神社や六義園にも行けそうだ。