WWD Japanのウェブサイトがリニューアルして、スッキリした見やすそうな印象のものに変わった。しかし実際のところ見やすさは見せかけだけで、ナビゲーションをクリックしても見当違いのタブに切り替わったり、ニュース一覧からニュースをクリックしたら、要約ページへ移動するだけで、本文へはもう一度クリックしなければならなかったりする。中でもひどいのがMobile Safariでの閲覧だ。

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このウェブサイトではスクロールをほぼ自前で制御しようとしているため、常にこのようにMobile SafariのURLバーとツールバーが上下にそれぞれ表示され続ける。その上、最上端にロゴとグローバル・ナビゲーション、最下端に広告がそれぞれ固定位置であるので、コンテンツの領域がかなり制限されている。iPhone 5SやSEどころか6+や7+でさえも致命的なのではないかと感じられる狭さだ。

とにかく文書を読ませようというウェブページでスクロールを制御するのはやめるべきだ。誰も望んでいないということもあるが、フォントやマージン、色と違い、視覚における雰囲気だけでなく感覚をも制御してしまうからだ。このことは没入型ではないメディアであるところの文章には良い影響を与えることはまずない。

それはスクロールの感覚が個人とその人が使っている機器に強く依存することが大きい。ヌルヌル動くと評されるホイールのマウスを使っている人が、ホイールをフックしてコンテンツを切り替えていくようなウェブページを快適に使えるかどうかはかなり怪しい。また仮にそういった人が快適な場合、カチカチ系のホイールを使っている人でも快適なように両立させるのは難易度が跳ね上がるだろう。加えてタッチ機器、タッチが基本だが独立してスクロール機能もある機器(タッチ・ディスプレイのノートPCなど)、などなど様々なパターンが存在し、それらに対応することはもちろん意識して作ることすらほぼ不可能と言って良いだろう。

実装においてもどのスクロールをどの機能にマップするのかをきちんと行うことはとても難しい。例えばこのWWD Japanの要約ページのひとつでは、中央の要約が表示されているあたりにカーソルがないとスクロールを行えない。その左右の部分にカーソルをおいてホイールを回しても無反応だ。特定のエリアだけで特定の機能にマップするような実装になっているため、このように期待通りに動いてくれない。

これまでいくつものスクロール制御の実装を作ってきたが、ひとつとして「あれは出来が良かった」と思えるものがない。加えて巷のウェブページでも「これは真似したい!」という出来のものは思い出せない。スクロールを制御したい場面がいくつもあることは確かだが、それでも制御するべきではないだろう。


WWD Japanのウェブサイトでは他にもいくつか気になるところがある。矢印キーでグローバル・ナビゲーションにあるタブを切り替えられるのだが、これがまた最初は期待通りに動くものの、記事ページなどを見てからトップに戻ったりするとひとつ飛ばしでしか切り替えられない。広めの画面だと画像の遅延読み込みや無限スクロールでのコンテンツが追加されるタイミングもやや遅く、サクサクとはほど遠い閲覧の感覚だ。

プロトタイプではなかなか優れたものだったのであろう欠片はウェブページのそこかしこに散見される。しかしあらゆる環境のあらゆる形でデフォルトとはかけ離れた挙動を、特にスクロールがらみにおいて提示されるため、その良さが伝わってこない。